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ゆい現役副住職の恵美さんは、大学から仏教学を学んできました。
そしてその大学には「哲君」と呼ばれる人に近い霊的な存在がいました。
今回は恵美さんから聞いた話を構成しなおして、「哲君」のお話をお送りいたします。
恵美さんの大学には哲君という名物の浮遊霊のような霊的な人がいました。
哲君は恵美さん達のはるか前の生徒たちや教員が除霊しようとしてもできなかった存在であり、生徒と一緒に授業を受けたり課題をやったりする存在であり生きている生きていないかの違い程度と認識されていました。
長らくそのようにすごしてきた哲君が最も気があったのが恵美さんの同期になります。
仮名を長谷川さんにしますが、哲君は大学だけではなく長谷川さんのアパートにも一緒について行きほぼ一緒に生活していました。
哲君が長谷川と一緒に長谷川の実家に帰ったりもしてたんだけども
うん。哲君はすごく自由だ……うらやましいくらい自由だった
一回みんなで行ったことあるんだけども、すっごいでっかい寺だった……うちの倍くらいあった……
その時も哲君はすごく、くつろいでてね。私らも合宿感覚で客間で雑魚寝させてもらって。客間も二間あるから男女別にできたからね。哲君はどっちも行き来したけども
ビールうまいよねえとか普通に言うからね。そんな哲君もついに小規模な神様だからねえ……人も霊もどうなるかはわからない……もしかした、とてつもなく良い事がおきるかもしれないし
長谷川のばーちゃんがうちのばーちゃんみたいな感じでさ。哲君を見た瞬間に除霊しようとしたんだ。哲君もすごい勢いで抵抗して仏具が二つ吹っ飛んだんだよね。で、ばーちゃんが“なんでこの世に残ってる”と聞いたんだわ。確かに私らは哲君がいる事が当然で哲君がなんで成仏しないのかなんて考えた事もなかったのよ
で、哲君が“家族が何処にいるのか解らない。それは気になってる”って言ったのよ。あと“もっとたくさん勉強がしたい、納得してから行くべき所に行きたい”って
で、長谷川のばーちゃんが哲君の話を聞いてる間に、私らは長谷川のとーちゃんと一緒に読経してた
やるべき事と言えば読経と掃除。墓地の掃除とか除草とかさせてもらったよ。地域の人からも長谷川さんちにお友達がいっぱい来てみんなで掃除してくれるって言われたし、地域の霊的な人からも随分しっかり掃除してくれるんだね、ありがたいねって言ってもらえた(笑)
先輩も俺らがいると哲君話しにくいかもしれないから掃除しに行こうってあちこち掃除させてもらったよ。どうしても高齢化してると掃除も一仕事になるからね。そう言う事で喜んでもらえれば私らも霊的な人らもどっちもうれしいし
長谷川の家は本当にでかいから、寺自体を守ってる存在もいた。だいぶ影響力は薄くなってたけども、ずっと守ってきただけあってさすがの貫録を感じたわ
うん。ごっついのがいた。哲君もびっくりしてたくらいだったから霊的なものでもワンランク上の存在っていうかね
うちはいろんな霊的な人が来てくれるからそれで守られてる部分はあるね。これはばーちゃんの徳のおかげ
あれくらい強い人がまだ世界にはいると思うとすごいね
恵美さんたちが地域の掃除や霊的な人たちとの対話をしている間に、長谷川さんのおばあさまは哲君と対話をしていました。
恵美さんたちも哲君の事は詳しくは知らない部分もあり、帰省中の間に知った事も沢山あったそうです。
うん。関西気質だなあって思っていたら和歌山出身で。みんなで調べまくったら多分ここが哲君の家だなって所のもなんとなく分かったのよ
長谷川のばーちゃんの力だな。あのばーちゃんは本当に懐が深い。ああいう風になるまでは私らはまだまだ修行が足りないと言う奴になってしまう
あそこまでの猛者になれるようにはまだまだ情熱とかが足りない。もう亡くなられたけども、すごくいい葬儀だったはず。そうやって送られる人って必ずいるからね
長谷川家の蔵とか書庫と見てた。哲君と同じ時代に発行された書籍とかを特に嬉しそうに読んでたよ。夜はみんなで花火とかもした。レポートの原案とかも一緒に考えたりするから本当に哲君は、ただ生きていないだけで同じなんだって思ってた。で、最終日には哲君に家族に会えるかもしれないからどうしたいって聞いたら一晩考えさせてくれって
うん。どうやってもそうだね。長谷川と一晩話し込んでたらしい。家族はもう誰も自分のことを知らないかもしれないけども、家だけでもいいから見たい。でも、不思議と家までの道が思い出せない。どうしてなのかがわからないのが寂しい。家族は自分に会いたくないのかもしれないって長谷川に言ったんだって
でも、行きたいなら一緒に行くからいこう。もし家族が哲君を忘れてたとしても哲君は俺の大親友だからそこは変わらないよって言ったらしくて哲君号泣してたらしい
生きてる私らよりも哲君は人情に厚く涙もろかったからな……長谷川のばーちゃんになんで哲君が家までの道を思い出せないのかも聞いたのよ
ばーちゃんが言うには、哲君の中で家族には確かに会いたいし、家もみたい気持ちもある。でもそれ以上にこうやってみんなと過ごせる時間が嬉しいからそっちの方に気持ちが出てきてるから道を思い出せなくなってる、って。家の近くにいったら思い出せるようになるから大丈夫って言われて
いや、哲君も心の準備が必要だと思うから涼しくなったら改めて皆で行くことにした。残りの日は哲君とみんなで楽しく過ごしたし、川とかで遊んだりして楽しかった。ちょっとした合宿状態だったかなぁって思ったくらい。
不思議な事もたくさんある気はするんだけども慣れてくるのは多分あるんだわ。ただ、生きてる人と生きてない人の線引きはしておくべき部分であり、そこを無理に曖昧にしてはいけないんだよね。もし哲君が行くべき所に行くというように言うならその役目は長谷川がやるってみんな思ってた。哲君も、長谷川が送ってくれるならきっと喜ぶって思ってたし。それくらいあの二人の関係はしっかりとできてたんだよね
一緒に映画観たり、散歩いったり、長谷川の悩みを哲君が聞いたり。本当に同じ時代に生まれてたらと思うけども、哲君だって色んな事があったから、今の哲君になって私らと、上手くやってるんだろうなって思うとさ。何が正しくて何が正しくないとかも解らないよねえ……日々本当に必死に生きていくだけというか。そうやって人も人じゃない存在も変わっていく気はする。なくなればみな仏になる。その仏になるのに時間のかかる人もいる。それが哲君なんじゃないかなあって
なんとなくそう言われると解るかもしれない。哲君はとにかく色んな人を引き付ける何かを持ってるよね。そこがすごいなあって思う。生前もだけども亡くなった後も色んな経験を積んできたから哲君って存在なんじゃないかなって聞いてて思う
哲君のご家族も哲君に似ていい人だった。哲君がどんな人だったのかもわかった。そして哲君は守り神になった。仏を超えていきなり神なのも哲君らしいよね。これで長谷川の家を哲君が長く守ってくれることになるし、哲君がその役目を終えて上に向かう際にはきっと長谷川が哲君を待ってると思うんだ。その時の長谷川が何度目の長谷川かは解らないけども
どれだけ生まれ変わってもきっとその二人の縁は切れないと思う
うん。私もそう思う。哲君はそういう稀なものを持って生まれてきて亡くなって私らに出会った。すべてが必然であったならば納得できるよねえ
恵美さんは普段から不思議なものをいっぱい見てるからね
人と人ではないものは共存が難しいとされる中、共存を模索して何とかして行こうという人も少しずつ出てきている。
哲君という存在はそんな人たちを結ぶものではないのだろうかと思いました。
一般的に霊的な存在は祓われてしかるべきるものであり、そこに存在することを認めない人もいます。
恵子さんなども基本的にはいくべき所に向かうことが幸せと考えており、長谷川さんと哲君の関係は本当に珍しいものだと、恵子さんのお手伝いなどをさせていただく立場として考える事ができました。
んでも事故とか分かるんだよ。みんなで電車待ってたら電車遅延のアナウンスが来て哲君が“誰かがはねられてるなぁ”って。哲君にしか聞こえないものとかもあって“大丈夫、大けがだけども生きてるし、ちゃんと退院もできるよ”って
交通事故とかだと“うわああああ、俺事故苦手なんだよお”とか涙目だったけどもねえ。すごく哲君はそういう部分で霊的な存在だけども人に近いってあったなぁ。男女どっちからも見える人には哲君は好かれてたし、相談もめっちゃ乗ってたからね。長谷川が失恋した時は一緒に泣いてたし、そんな女願い下げしてやれ!!もっといい女がでるから!!って
長谷川は本当に幸せだよなぁ。あいつの人生哲君ですごく変わったと思うよ。哲君いなかったらあいつ結構なダメ男だったというか残念系だったと思う。今じゃ守り神付きの住職だから本当にどうなるかは分からないよねえ
誰かの人生に影響を与えることのできる存在は、生きていた時だけではなく死してなお、そこにいたいという強い願いがかなったものなのかもしれません。
一歩間違えれば地縛霊などになる可能性の中、そうならずに存在してきたのは強さもあったからなのではないでしょうか?
時々電話来るけども哲君も普通に長谷川の声帯使ってしゃべれるようになってるよ。ただ、基本的には本殿と書庫にいるっぽいけども。娘さんがお兄ちゃんって、なついてるからきっとあと数年したら娘さんの相談に乗る存在になるだろうし、嫁さんの愚痴を聞く存在にもなるだろし、何よりも長谷川の一番の話相手だと思う。すごく特殊であり、すごくいい関係だと思う
うん。哲君も生きてる時も楽しい事はいっぱいあったけども、俺は死んでからもこうやってみんなと楽しいことがいっぱいで嬉しいって言ってるからね
落ち着いたら哲君も一緒にきっと遊びに来るから紹介するよ
大丈夫。音を出したり揺らしたり自己主張は激しい。その辺は結構関西の人間だと今でも思ってる
かなりそっちよりだと思う。そっちよりのなまりだし、ギャグセンも高い。本当にいい人材というか神材というか……
哲君の進化はしゃべるとガッツリ出るんだ。我々東北民とは違うあのキレの良さ……哲君という存在は本当に紹介するのが難しい
でも、そんな浮遊霊みたいな状態から神様にもなれるんだねえ
哲君は確かに浮遊霊カテゴリなんだけども、自由霊というかね。いつでも成仏もできるけどもまだ今じゃないってきてるからね。なくなってからもそこそこ善行を積んでいるというか、人が好きで人の所によってきてあれこれするのが好きだからそこで様々な徳を積んだんだと思う。この徳とかは我々にはどうにもならんからねえ
地霊とかが土地神とかになるパターンってのは結構あるんだけども、自由霊とかが守り神なるってのは日本よりも中国とかの方が多いんだよねえ。その家を守るために神格化する。日本だともっと違った形でお守り様とか座敷童とかで妖怪のカテゴリーにはなってるけども。あれだって守り神の一種だからねえ。哲君もそこに入ってるとは思う。妖怪ではないのは間違いないし
娘さんが庭でビニールプールで遊ぶじゃん?哲君が見守るじゃん?
奥さんが宅配いつ来るんだろうねえっていうと哲君が“そこにレコーダーを置いてくれたら俺が対応できるから買い物行ってきてなぁ。俺、どらやき食いたいわぁ”っていうんだって
うん。中に入ってる音声に哲君があれこれして、荷物は玄関におねがいしまーすって言うの。だと、哲君が見えなくても哲君が対応できる
プリキュアも一緒に見てるらしいからね。哲君はメディアミックスとかも大好きだから多分家族みんなで映画観にいってる。一回大人三人子供一人って言ったら映画館の人がすごく困ってたらしい
んで長谷川が記念に買いたいのでって買ったらしい。哲君が“もったいない”ていったら“哲君も見るんだからチケット買うのは普通だろ”って
娘さんと一緒の席で哲君は見てたらしい。家族だからねえ完全に。何かお土産とかも大人三人子供一人で来るらしい。近所の見える人も“あのお兄ちゃん神様なったのねえ”って。そういう面白い関係っていいなあって思ってる
きっと娘さんの結婚式でお父さんと一緒に泣くタイプだ
すでに幼稚園の〇君て誰やってなってるらしい。父親が二人いる感じだよねえ
わたしは親父や、ばーちゃんから神様って身近な存在であり、敬意を払うことは当然大事だけれども、そこにいるということを感じることも大事だって教わってきたからねえ
お米には七人の神様がいるから大事に食べなければいけないのだ……ただ、どこに感謝したらいいってなったら多分豊受さんとかだとは思う
お米というものは白い食べ物で体を作るもの。神事にも祭事にも使うものだからすごく大事なものなんだよね。お供えとかもお米は定期的に変えておくとちょっと良い事が起こりやすい、たぶん
ただ、中には哲君みたいに、どら焼き食べたいとかもいるから嗜好品とかお酒とかも大事だと思う。頂き物をお仏壇にお供えして少し時間を置いてからいただくのも先にご先祖さんに召し上がってもらってその残りを頂戴する行為だからね。すごく大事なことであり日常的にできてるのはいい事だと思う
うん。そうやって身近な所にまだ信仰ってものはあるからね。日本人は基本的に神様をしっかりと愛し敬う民族だと思う。だからこそ、哲君みたいな変則的である意味、いびつな存在であっても受け入れることができる。受け入れらてるから、哲君も何とかなりたいと願って守り神になった。いい方向に行きますようにって考えることはすごく大事だなって思うよね
よく、映画化決定。全先輩と哲君が泣いたってネタをやっていた……哲君も、俺も絶対泣く自信あるわていってた……
本当に、この大きな事態を残り超えたらみんなでまた違う未来もできるんだろうねえ。こういうものは短期間では終わらないけども。Kちゃんもいろんな風に変わってるように世界もきっとそのありようを変えていくんだよ