恵子さんは現役の霊媒師であり、除霊や降霊なども行う方です。
正確なイタコではありませんがイタコのようなこともできるという部分もあり説明の際にはイタコですというときもあります。
以前よりもコロナの影響で霊的な仕事が増えたことなどもあり、人手が足りない時は筆者もドライバーなどで駆り出されるようになりました。
今回は恵子さんが小さな子供さんの除霊をしたときに立ち会わせていただいてお話です。
数日前から子供さんが狐憑きみたいになってしまったらしくて、愛子さんから私に連絡が来たのよ
狐憑きというとファンキーな言動をするという感じですかね?
まあそんな感じよね。ちょっと見てみないことにはわからないし。なので今回もちょっと運転をお願いしちゃったんだけども
帰り道に予想外につかれると帰宅困難者になっちゃいますからね
恵子さんは以前は自分で運転されて現地に向かうことが多かったのですが、あまりにも疲労がひどく何度か家の人に迎えに来てもらったなども経験から何が起きるかわからない時は誰かに運転を頼むことがあります。
筆者は恵子さんの自宅までの距離が近いこともあり、安全であればという条件で運転を引き受けることもあります。
もちろん無理な日程の時はお断りせざるを得ないときもありますが、それに対してどういこうということもありません。
ここの家ですかね?表札的に。中に車入れちゃっていいですかね
恵子さんが言う方向を見ても当然ですが何も見えません。
この場合のお迎えは霊的な存在であると考えられる程度には鍛えられていました。
恵子さんはそのお迎えという存在に会釈をしていたのでそれに倣って一礼し「おじゃまします」とつたえ私も恵子さんの後ろをついていきます。
お迎えがKちゃんをほめてたわよ。ちゃんと挨拶をしたって
いや私にはまったく見えませんけどもそこにいるって言われたらあいさつした方がいいじゃないですか。減るもんでもないですし
そうね。お迎えというよりも眷属というべきかしらねえ
まあまあって所じゃないかしらねえ。でもそんな存在が子供さんの中にわざわざ入る必要があるのかしらね。玄関のお迎えもあくまでお迎えだし
相談者さんのおうちで軽く挨拶を済ませて、子供さんがいるという床の間に案内されました。
広い平屋のおうちで中庭もある素敵な空間です。
板張りが少しきしむ音も趣があるという感じでした。
ここからは相談者さんをAさんとさせていただきます。
そしてこどもさんをBちゃんとさせていただきます。
子供さんが不可解な言動をとるようになったのは数日前からであり予兆もなければ心当たりも全くない。
ここ数か月は遠出などもしていなく何か遺跡や神社などに言った記憶もないということでした。
通された床の間にいたのは5歳前後の女の子に見えました。
ですがその年代にはそぐわない正座の仕方、まっすぐに伸びた背。顔だちも随分と大人に見えたのは確かです。
あらあら。どうしてそんな子供さんの中にいらっしゃるのですか?
困ったことにこの子に引き寄せられてしまって出れなくなったのだ
その瞬間の表情は女の子のものではなく男の人、成人男性のように一瞬見えました。
でもすぐにまた5歳前後の女の子に戻りました。
たまたまだな。相性ともいうべきかもしれない。理不尽ではあるが珍しいことでもなかろう
そうですね。ここの家に何かの関係性があると思えないんですが
ないな。私は本来いる場所に戻る途中でここを通った。そしてつかまってしまっただけなんだ。なので私もできるならば早く帰りたいのだがこの子の体を破るわけにもいかない。この子も私を捕まえようとしたわけでもないんだ。たまたまそうなってしまったんだ。そういったものであるからそれはできない。故意に私を捕まえたのならば食い破るのも仕方ないがこの子は全く悪くないんだ困ったものだ
そうだ。だから困っている。私はここからでれるならそれでいい。それ以上の望みはないしこの家に対しての何かを祟ろうとかもない。むしろ出してもらえるならばこの家に幸は少し贈ろう。大したものではないがな
切り離すのは私の得意分野ですもの。その代わりに貴方の力を入れたこの子の髪を少しだけいただいてもいいですか?
ずいぶんと待たせてしまった。あいつらにも褒美を取らないとな
ぜひそうしてやってください。Aさん、Bちゃんの髪を少し切らせていただいてもよろしいですか?
恵子さんは自分で持ち込んでいる特性の小刀といもいえるようなものでBちゃんの髪を束にして少しそいで和紙で大切につつんでいました。
束にしたものは何らかの道具にすることが多いのもなんとなくわかります。
恵子さんは遠慮なく子供さんの腹部を殴りつけました。
普通の子供であれば内臓に何らかの影響出たくらいの威力があったのではないでしょうか。ですが子供さんは痛がることもなく声を上げることもありませんでした。
あっけにとられてみていると子供さんから離れたとことから声がかすかに聞こえた気がします。
恵子さんがふすま戸をあけて誰かを見送るようにした瞬間、室内の電気が二度ほど点滅しました。
幣串になります。もともとは建物とかの魔除け用なんですけども、これに向かって力いっぱい拳を入れたのでBちゃんには当たってませんよ。中に入っていた方を出すためには、あれくらいやらなきゃいけなかったので。この幣串にはあの方の残り香がありますので、娘さんの七五三までは残しておいてください
うーーん、ものすごく雑な言い方になりますが獣からランクアップした神様になります。なので、さっきもこの子と一緒に入ってくるときに玄関前にはお迎えの眷属がいましたし。おそらくはオオカミかフクロウかとは思いますが。なのでたまたま夜にとんでいて娘さんとタイミングがあってしまった。娘さんが寝てたり違う部屋にいればそれはなかったんです。本当に誰にもどうにもできない偶然だったのであの方も困ってたんでしょう。それで狐憑きではないですけども、ああいった感じになれば巫女や神官が来ると考えたのかもしれませんが、まあ来たのは私ですが結果は同じですね
ないですよ。むしろどうやって無傷で脱出しようかと考えてくれるほど思慮深い方でした。なので感謝があるならその幣串にたまに手を合わせたりお酒をささげたりしてもらえれば大丈夫ですよ。娘さんは今日は多分起きませんが明日には元に戻ってます。特に霊能力があるとか器の才能があるとかでもないですので、気にしなくてもいいですし、何でしたらこのことは忘れても構いません。その幣串も時期が来ればただの紙にもどりますから
よかったです……このままどうにもならなかったらと思って神払いできるという方に連絡したら友人がそっちの方が得意なのでその方に行ってもらいますねって言われて
古い友人からの頼みですからね。私も断るわけにはいきません
恵子さんの仕事の中でも今回はものすごくスピード勝負というくらいに早い案件でぼんやりとしてしまいました。
気を取り直して運転を始めると恵子さんが不意に言い出しました。
夜摩天で通じるのは便利ねえ。オオカミかフクロウからだとは思うけどもとても落ち着いた方だったわねえ。本当にたまたま捕まってしまって。でも子供に罪も咎もないからどうやって出たらいいかと困ってらしたわね。まあ。夜摩天なんてそうそう見れないし生きてるうちにあと出会えるかもわからないからねえ
オオカミやフクロウってたまにそういう存在になる個体が出てくるのよね。なので夜を飛んでいたら事故ってしまった。お迎えも来てるけども中から出れない。だから幣串でブロックして物理的に衝撃を与えることで引きはがしちゃった感じね。これくらい早く片付いてくれるものだと私もありがたいんだけども
これで筆を作ってもらってお札の筆を新調しちゃおうと思ってね。ご加護が大きなものになりそうでありがたいわねえ
お迎えが来てるっていうのでランク高そうな気はしましたけども
だからこそ、無駄に子供を傷つけないでいたのよね。ああいった存在は見栄と美学を尊重する。一種の不注意で起きてしまったことで子供を傷つけることは名折れになる。そういう瑕疵が一番疎まれるような存在だもの
神様とかそういう系って面子とか気概とかを最重要項目にするって言いますもんね
そうねえ。特にそこそこのランクであるほどにね。その面子のひとつが信仰心とかもあるし。基本的にああいう存在は一度決めたことを覆すことも不浄扱いになるわね。なので一度傷つけずに何とかすると決めてしまったから余計にどうして出るかを考えてたみたい
「がっちりと噛み合ってたのよ。だから縁切りよりも物理的に引きはがす方が早かったわね。長時間になればなるほどにあの方も出にくくなっちゃうから。今回はいろいろ持ってはいたけども幣串でいけそうだったからあれで一発にしちゃった感じねえ
めったにないわよ。私も二回目ねえ。一回目は他県での案件だったけども。ああいう本当に偶然で本来何の霊的なものを持ってない子でも起きてしまうっていうのは確立にして1%以下だと思うわよ。だから入ったものによっては命の危機だってないとはいえない。今回はランクも高く、分別もある存在だったからねえ
そういえばこの間この道じゃないところで水神って石碑を見たんですよ
ああそれも本物よ。正確には水神と水神のお嫁さんになったやつね。人の好きな神様だから道路に面した所に作らせたんでしょうね。はるか昔からずっとそこにあって新しくはなっても場所が変わることがない。人がたくさん来るところで人を見ていたい。その人たちがこんな所に水神の何かがあるって認識するだけで一定の強さを保つことができるからね
私もちょっと道間違えて見つけた感じではあったんですけども、こんなでかいのぼりもあってこんなところに水神!?ってなりましたもの
神様ってそうやって人を呼ぶものなのよ。そうやって常に新しい人を呼んで新しい信仰を得ている。大きな神社なんかはそれが自動的にできるからね
驚きと一緒にすごいなあってなればそれは信仰だからねえ。さすがに私にはそういう神様の案件は持ってこないでほしいけれども。神様系って相性がものすごくあるし、下手したら昔みたいに腕一本おられるとかもあるからねえ。ああいうのは専門職の人にお願いすべきよ
私は霊的なものや今回みたいにステップアップした存在ならいいけども最初から神格として生まれた存在とかは無理よ。そういったものはそれ専門でやってる方もいるから。神殺しって言葉があるように専門の家系の方がいるわよ。神格を持ってるけども神様としてのチカラではなく別なものにあってるならば無に帰してしまう人とか。私も伝聞程度だけども。そういった人はそういう状態になった神様を感知する能力も高いからねえ
そうね。うっかり物の神様って感じだったわね。きれいな目をしてていい神様だったわよ
あの幣串もちゃんとまつればあの子の7歳までは厄除けになるし。別にしなくても問題は起きないし。今回はそういった感じだったわね