前回は準備をしたとこでしたが今回はいざお祓いということになります。
実行の前に恵子さんに呼び出されて恵子さんの自宅に向かいました。
だいぶいいです。ただ何かあってもいいように吸入用は持ち歩いてます
恵子さんの部屋にはあの骨格標本に肉付けしたものがあり、ちょっとした大きめの人形のようになっていました。
どうやら模型などを作れる人にお願いして肉付けをして人の形にしたようでした。
で、これはまだお化粧とかをしてないし髪の毛もないのよね
だと、医療用ですが人毛100%のウィッグが手持ちにありますよ。ちょっと家に行って取ってきますね
本当!?助かるわあ。あとちょっと落ちにくいお化粧もしてほしいのよ
恵子さんに言われたものを一式準備して恵子さんの自宅に再びお邪魔します。
人形には人毛のウイッグをかぶせることで子供のような姿がだいぶできてきました。
目を開ける、必要はないということだったので目のくぼみなどを少しいじってまつげをつけ、眉や簡単なメイクで陰影をつけていきます。
小柄な子供さん、10歳前後くらいの姿が出来上がり遠目からならば人に見えなくもないほどでした。
ほんとうにね。でもこうやって体のがわができたから、だいぶ変わってくるわよ。あとはこれを当日までこの箱の中にいれておけばいいし
最後の最後にお願いすることにしてるわ。基本的には私たち二人で行くことになるわね
了解しました。前日は酒飲まないようにしておきますね
いや、あまってるものだったし数年寝かせてたようなもんなんで
それでも人の髪の毛ってことはとても大きなものよ。ちゃんとお代は支払わせてちょうだい
恵子さんに指定された日に迎えにいき、再びNさんの自宅にお邪魔しました。
人形の入った箱は大きめなので私が運び、その他のものを恵子さんが運んでくださいました。
子供用の布団一式を準備するようにNさんに連絡していたらしく人形を寝かせるとそこには子供が実際に寝ているような錯覚を覚えました。
仕事の際の恵子さんはとても丁寧な人です。
結ばれていたひもをNさんの了承と同意を得てからほどいて開封していきます。
折り紙のツルのような模様が刺繍された布が中に入っておりその布も丈夫で結ばれていました。
恵子さんが結びをほどくと中にあったのは3センチほどのヒスイやメノウといった感じの」天然石に見えた何かでした。
楕円形であり表面はつやがあり、これが長年しまわれていたとは思えない光沢でした。
ですがしっかりとみるとその中に何かの破片が見えました。
その時にようやくこれが漆でコーティング加工された古代人の骨のかけらだということを認識しました。
言われなければただのアンティークな何かであり、コレクターなどが好きそうな見た目の、ものでもあります。
ですが、事前に聞いていたこともありそれは見つめるだけでも何かしら不安を掻き立てる感じがあったのも事実です。
恵子さんは河骨を布の上に敷き、その骨をその上に載せました。
その時に「じゅっ」という何かを焦がしたような音がしてわずかに白い煙も上がりました。
焦げ臭さというよりも生臭さがあり、生ものなど一切ないのにと思っていた時でした。
Nさんが悲鳴を上げました。
それは寝かせていた人形の一部が溶け始めたからです。
もちろん溶けるような要素は無く溶けるような素材でもありません。
それなのに人形の顔の一部はまるでやけどでもしたように溶け始めていました。
ですね。これいいパテだから自然で劣化するのはあんまりないですし、しかも作ったのもつい最近ですし。ウィッグも人毛100%ですし
これくらいで驚くような子じゃないのよこの子は。もちろんこの子は見えないしできるだけ怖いものからは逃げたい、私の仕事も安全な部分は手伝えるけども危険な部分は運転手だけで終わりたいって考えなのよ。だからこそこの程度じゃ驚かないくらいの場数は踏んでるのよ
ですねえ、うれしくはないですけども慣れますね。なんか変なもの飛んでくるとか変なものに触れるとかじゃないんで大丈夫っす。Nさんも安心してくださいっす
それがこの骨の持ち主の怨念ですからね。これを無いものにするんですからそれなりに大変ですし、これを手に入れる為に色んな事をしたんじゃないですかね。でもそこは私の仕事ではないですし興味もありません。私が請け負っているのはこの骨の効力を弱めること。そしてこの家ではない場所に持っていくことですから。それ以外の依頼はお受けしませんとも最初に伝えてますし、こういうお仕事は一期一会。依頼が終わった後の詮索も対面も基本的にはございません
恵子さんは後をひかない人ですからそこは安心していいですよ~ちょっと席外してもいいですか?ここなんかあついのと息苦しいので、廊下で持ってきたジュース飲みたいっす
これは恵子さんの分です。これがこっちの人形の分。自分の分で3本です。こないだ買ってもらったやつ2本飲んだんですがおいしかったので
あらあら。この子までお供物もらっちゃってうれしいわねえ。Nさん、わかりますか?この子はこういう子なんですよ。あなたが今思っているような事は一切考えてもいない。子供の霊ならば自分だけが飲むよりも、子供の分もあったほうがいいだろう。飲む飲まないは相手の自由。そういう考えで行動するから私はこの子を助手にしてるんです
助手までいかないっす。ちょっと飲んできますね、こっちの子ようにプル開けた方がいいですか?
そうね。本人も喜んでるみたいだからそうしてちょうだい
10種類の乳酸菌なのでおいしさと健康がうれしいですよね
廊下で飲み物を飲みながら室内の漏れ聞こえてくる会話を聞いていました。
除霊などで自分ができることは基本的にないので準備段階までのサポートが終われば後は見学が中心になります。
恵子さんに指定されたことはしますが、それ以外のことは無理にしないという、形でやっていることもあり、この時は会話を聞いていることが多かった状態です。
その会話の中でわかったことは
・Nさんの旦那さんは非合法な方法でその骨を手に入れた
・当時その骨は呪物としての効果も高く、何人かにその呪いを使った
・この骨はまだその力があり手元には置いておきたくない
ということでした。
飲み物を飲み終わり室内に戻り二人のやり取りを聞きながら人形に目をやります。
この骨の持ち主と同じってわけではありませんが復元できる部分はこの人形として復元してあります。人体の骨格標本を軸にして作ってますので今すべてのパーツがそろっている状態です
(強化プラスチックだから腐りにくいんじゃないかな~)
この呪物自体は私が引き取らせていただきますがこの人形は朽ちるまでNさんが管理していくことになります
(朽ちるまで……腐ることあるのかなあ……腐ったとしても中からフルパーツの骨が出てくるわけだからいろんな意味で事情知らないと怖いよねえ。私だったら嫌だなあ)
では契約破棄しても構いませんがどちらがいいですか?
(どっちがいいって言われたらまあ悩むよねえ……そもそも私はあの骨がどれだけやばいかがわからないってのもあるけども)
恵子さんが紙の束で骨をたたき始めると人形の腐敗が進み始めました。
この時ほどグラスアイを入れずに作ってよかったと思った瞬間はないほどです。
鼻は解けて喉骨も露出し、白装束にそのパテがしみ込んで黒い液体になっていました。
その中でも白装束の一部が焦げたようになっていました。
それは左の大腿骨にあたる部分になり、おそらくは恵子さんのいうところの骨があった場所だと思いました。
人形は残っている部分もあれば腐ったようになり骨が露出した部分もありました。
溶けたところは持ち去られたところになるわね。そのまま発掘されたり低調に管理されてる部分はこのままよ
なんと思わないのと言われてもこの骨格標本見つけてきたのが私なんで……たしかに作りはリアルですけども骨自体は偽物ですし誰かが通報したとしても検査すれば偽物だってすぐにわかりますよ
そうじゃなくて、こんなものを家に置けと言われているのよ!!そうだわ、あなた!!あなたこういうの平気ならあなたが持っていてちょうだい。お金は払うから
えー……賃貸のワンルームなんで置く場所ないですしちょっと無理です
私とNさんのやり取りをよそに恵子さんは新雪を閉じ込めた瓶を開けて人形と骨に対してその液体になった雪と最後まで残った氷をまいていきます。
その水をまき終えると同時に焦げ臭さや生臭さは消えて、人形の腐敗も止まったように感じました。
それに、誰かに押し付けても返ってきますよ。それだけの事をお二人はしている可能性もありますから。そちらのほうの怨恨やトラブルは私ではない方に依頼していただければ。わたしはこの仕事限りでお受けしてますので
私文章とかしかできないんでちょっとどころじゃなく全然無理です。全く何もできませんし今回も荷物持ちとドライバーなんで……というか基本的には全部そうなんで……誰かに紹介してもらった方が間違いないですよ~
骨の効力は押さえました。この骨も私が持ち帰り処理します。ここまでがご依頼であり、ご依頼はすべて完遂したことになります
その人形が朽ちた後は丁寧に埋葬してあげてください。それまでは一室に寝かせるなどでいいと思いますよ。それと、この骨を包んでいたこの布の除霊は私はちょっと不得手ですので他の方に早急にお願いした方がいいかと思います。物がいいだけに色んなものがしみ込んでますので
むしろこの大きさのものをよく入手できましたね。骨以外のものを感じてたんですが解決しましたわ
あの布はなんなんですか?なんか特殊なものを包んでいたとかですか?
即身仏……ええええええ、あれですか、あの即身仏ですか!?
カテゴリーとしては即身仏なんじゃないかしらねえ。即身仏なのか人柱なのか人身御供なのか分からないけどもそういう感じだわね
そうね、私のやるべきことは終わったので帰りましょうね
そのまま骨を恵子さんが持ち、一路恵子さんの自宅に向かいました。
普段ならば食事などをしていくことが多いのですが焦げ臭さや生臭さがあったことからちょっとそのような気持ちになれなかったのも実情です。
帰り道恵子さんは今回のことの顛末を話してくださいました。
旦那さんはおそらく、あちこちの盗掘や墓あらしを若い頃からしていたのね
墓荒らしっていうか、遺跡のほうの墓標になるわね。当時もだけども珍しいものあるからね中に
大体はまあ、ふるい装飾品とかそういったものが好きな人が喜ぶものが出たんだと思うのよ。ただ一つ違ったのはあの骨は古代人だったことね。しかもきちんと埋葬されるほどのクラスの人物であり、自分の希望ではなく皆のためにその命を使った。まさに喉を垂直に切られ、喉骨が出た状態で声を出せないままに息耐えた。それなのに見知らぬ連中が来て自分の痛む喉を持ち去り、骨までそろわぬようにした。そりゃあ恨みくらいは出るわね。もっともそこまではある程度調べてあの骨を盗掘したとは思うんだけども
骨は確かに誰かに害をなす効果は強かった。数人に対しての呪物的なことを行ってもあの骨の力は全く衰えることはなかった。これは多分今でも喉骨を持ってる人物がそれを使ってるからだとも思うのよね。そこは今回のことからは外れるから私はノータッチだけど
あの包んでいた布もあの骨が呼び寄せた部分はあるわけ。持ち主に対して何かを仕返ししたいってね。同じように誰かのために亡くなった方を包んでいたものだから。まあ、だからと言ってどうというわけではないんだけども、よくもまああんなことができるもんだわねって
Nさんが存命中はそのままだと思うわよ。あの人形があることでNさんは自分たちがしたことを忘れることができなくなる。それにあの布は置いてきたからその布の解呪を誰かに頼まなければいけない。布に関しては私は専門外だからお断りさせてもらう感じではあるわね
この骨はね、神様が自分がいた山に埋めてきていいって言ってくれたわ
それで最後は神様にって言ってたんですね。このまま山に向かいますか?
Kちゃんは本当に自然に何も考えることなく、お供えとして飲み物を持ってきたでしょ?あれね、とっても嬉しかったみたいよ。だからこそより一層Nさんへの恨みが出ちゃったのもあるし。その中であなたはあなたで面白いこと考えるから私も笑っちゃいそうになっちゃったわよ
まあねえ。ああいうときはそれぞれの思念を聞いていくんだけどもその中にあなたの声とか考えもあって、面白いこと考えてるわねえって思ったりしてたわよ。まあ、危ないこともなく、無事にこれで終了といっていいわね
どうにもならないわね……ああなってしまったものは。仮にあの骨に対してある程度丁寧に扱っていたならまだ違ったかもしれないけれども呪いをしっかりと使ってしまったからその分は自分で受けなければいけない
この骨は今度は自然に任せて朽ちていく事になるわよ。だから山に埋めるというかね。持っていて私が使ってもいいけども、この骨だってもう休みたいでしょ。それ以上ひどいことなんてしたくないもの
山の一角に恵子さんは丁寧に骨を埋めていました。
その骨はこれから何年もかけて自然に帰ることになります。
おそらくは私は埋めた場所もはっきりしなくなるような気がしました。
もっともこわいのはNさんのように人の業であることと、呪物を粗末に扱ったことで起きる代償をでした。
NさんはNさんの代ですべてが終わる代わりに残りの時間をあの人形と過ごすことになるというある意味とても大変なものが待っていることになりました。
恵子さんは時折、霊能者みんなが完全なる善人ではないといいます。
これは霊能者であっても自分の安全が最も大事であり、自分の命や家族の危険までをもって仕事はしないということもあります。
また、請け負った仕事以外の事はしないこともあるという条件です。
これは自分の能力を理解ている人ほど無理はしないという部分でもあると思います。
恵子さんのような存在はそこまで多くはないかもしれませんが、見えないものに対する仕事を請け負う方は確かに存在しています。
今後も、できる範囲での取材を続けていきたいと思っています。