普段の恵子さんの仕事のお手伝いは除霊などが中心になります。
ですが今回は霊的なものはもちろんですが、霊的なものとの対話や仲介なども多く霊能者というものの広さを感じることが多いのも事実でした。
目次
除霊が必要な霊は、霊能者一人では追いつかない
石巻、まだまだ大変ですよね
恵子さん
そうなのよね。まだまだ町中に霊的な人も多く残ってるし
そういう人たちはどうなるんですか？
恵子さん
人の形をとどめていたり、人の言葉を解しているならまだいいんだけどももう肉の塊になってる場合には除霊したほうが良いのよね。でもねえ……そういう状態で一人をやれば我も我もとなってしまう。それは震災のあとにこちらにきて私も体験したもの。ただね、あのときは 僧職や神職の方も多くいたからまだ対応できたの。今のこの状態だと私だけでは救えないわね。救おうという考えもおこがましいのかもしれない
難しい問題ですね
恵子さん
もしかしたらそのまま新しい土着の神になる存在が出てくるかもしれない。そういう存在になるために一度自分を泥までに落として神格を求める。本当の渇望の根源が自信での無念と、それゆえに人を守りたいというものがあれば新しい形の神様が生まれてくるのかもしれないのよね
そういう人もいるんですか？
恵子さん
亡くなった方には当然だけども僧職や神職の方もいたもの。そういった方たちが現代の即身仏のような工程で神格を得て神様になるのかもしれないって見てる存在も二人くらいいるわよ
でも今はなんかすごい姿なんですよね？
恵子さん
そうね。ほとんど肉と泥の間くらいになってる。でもその姿まで自分を落としてもまだとどまることを選び厳しい環境での一種の修行に耐えている。本当の意味での衆生を救う存在になりたいのかもしれないわね
さくさくと成仏する人も多かったんでんすよね？
恵子さん
当時はねえ……自分が亡くなったことに気が付かない人やなんで自分が死んでるんだとか怒り出す人も多かったわねえ
なんとなくわかります。私も上から何かふってきて気付かないうちに亡くなるとかなりそうですもん大地震とか
恵子さん
ほんとうにそういう状態の人もいれば、津波が来ることに逃げることも間に合わなくて祈るような形で亡くなった方もいる。何ともいえない気持ちになったわねえ
……………………
恵子さん
忘れないでいようとか、前を向いていこうっていうのはね、安全なところの言葉なのよ。忘れることでしか前に行けないこともある、その土地を捨てることでしか振り払えないものや振り切れないものもある。悲しみに暮れる時間はとても大事だし、泣かないで前を向こうなんて言葉はここにいたら出ないわよ。今はたくさん泣きましょう、それでいいんですってしかならない
葬儀や慰霊のため、無償で被災地に来た僧侶や神職も
ですねえ……忘れること、無理に前を向かないことってすごく大事ですよね
恵子さん
そうなのよ。Aさんもね、職場の同僚を亡くしてるし息子さんの同級生も亡くなってる。その時に私もなんていったらいいか悩んでしまったもの……いま、あそこまで笑ってくれるようになるまでにかかった時間。その時間を考えずに前をむこうっていうのは無責任な言葉になるのよね
ですよねえ……私はあの日、寒くて何をしたらいいかわからなかったんでインスタントコーヒー飲んでました
恵子さん
あったかいものを飲むのはすごく大事なのよ。あったかいものを取らないと心から死んでいくって杉良太郎さんもいってたもの
杉良太郎号トラックでの炊き出しですね
恵子さん
あの方は規模にかかわらずに来てくれるからね。あったかいものを食べないと心が死んでしまう。心が生きてればいつか前に行ける、ってね。本当にいい男ってこういう人のことを言うんだろうなあって思ったわよ
こうしてきてみると復興という言葉の難しさを感じますね
恵子さん
復興っていうのは人もだけども霊的な存在も同じように復興を求めてるのよ
？
恵子さん
石巻もだけども、被災した多くの町で霊的なものを守るものが壊れたのよ。そういったものを復興させていくのも大事なこと。Aさんも言ってたでしょ、神社を復建させて流されたご神体を見つけて綺麗にして、神主さんに改めて魂を入れてもらったって
ええ
恵子さん
そういう長年その町の人たちの心にあるものを復興させていく。そこに関与することができるのも霊的な力のある人間になってくる。その中でも神職や僧職ってなると本当に少ないのよ。そういった人たちが純粋な気持ちで”弔いの手伝いをしたい“とあちこちから集まった。利権や利益なんて全く考えずに、そこにいる人たちの気持ちをどうにかしたいという気持ちだけで来て葬儀や読経をしてくれた。そこに僧侶がいて読経をしてくれたら最低限の葬儀の形にはなる。そういう儀式っていうのはね、人の心を取り戻すためにとても大事なのよ。大きな自然災害の前では心さえもつぶされてしまうから
ですねえ……
恵子さん
私は僧侶でも神職でもないからそういったことはできない。だから家族の声を届け、どうにかして上に行くための方法を作って上にあげていった。そういう気持ちに金銭がどうたらとかなんてないのよ。あの時はみんな必死で、帰ってきてからなんて自分は穏やかな所に住んでいるんだろうってほっとしたのと同時に無力さも感じたわね
私も5月のときにこっちにきたんですが、道路がすごいことになってましたし自販機や船が田んぼに流されてましたね。仙台駅前だけがかろうじて回復したように見えたというか
恵子さん
Kちゃんはそのときに何を思ったの？
私は亘理に友人がその当時住んでいて、インスタントコーヒーとサニタリー用品、チョコレートとかカップ麺とか持って行ったんです。コーヒー好きな友人なのでコーヒーであったまってちょっとほっとできたらなって
恵子さん
嗜好品ってね、すごく心を生き返らせてくれるの。それは霊的な存在も同じなのよ。その人の好物をお供えするだけでもお互いの心の枷が溶けていく。そういうものなのよ
被災して亡くなった強い霊能力者も
恵子さんの指示で向かった先は墓地でした。
比較的新しい墓石が多く並んでいることがこの地に眠る人たちが震災で亡くなったことを静かに伝えてきました。
恵子さん
私の古い友人でね、わたしよりも腕のいい霊媒師がいたのよ。地震はなんとか免れたんだけど、救助してて自分が持っていかれてしまってね。きっとその人が生きていたら同じように訪問したんだと思うのよ
この墓石のかたですか？
恵子さん
そうね。なので好物を持ってきたのよ
するめだ
恵子さん
それとお酒ね。とにかくお酒が好きだったからね。いい仕事の後には必ず飲んでいたわね。でもそれはお酒が好きというよりも体に入ってしまったものを輩出するためというのもあったんでしょうけども。体内に蓄積しやすい人っているのよ。それであの時に引っ張られてしまったというかね。本人もすきを突かれてしまったとは言ってたけども
そういう時に会話ができるってなんかいいですよね
恵子さん
どれだけの無念だったのかをずっと語られたわね。しばらくは私も付き合ってたわ。本当にいい霊媒師だったのよねえ……それである日に言われたのよ。そろそろ上に行こうと思うけども体重くて思うようにいかないって
はい
恵子さん
彼が今までに祓ったものの残骸がね。なので引き剝がして上にあげたわ。この場所で餌にさせてはなるまいと思ったし
地震で大変なときに襲撃してくるとは……
恵子さん
化け物なんてそんなものよ。自分のことしか考えないし、自分が一番かわいい。化け物になる人にもそういった素地は必ずある
なんともやりきれない話ですね
恵子さん
それもまた俺の運命だったんだろうって、言葉が出るまでは数年かかったわよ。悔しいという気持ちと無念を持ったまま上にいったからね。それでも行かなければ自分もそれらと同じようになってしまう可能性がある。無念ってそれだけ大きなものなのよ
私にはそういったものを分かる力はないですがなんとなくわかります
恵子さん
なのでこっちを回った時はこうしてお参りにきてるのよ。でも最近はお参りは年1くらいね。そこまで頻繁に来なくていいって本人も言ってくるし
本人も言ってくる
恵子さん
その辺はねえどうしても訴えておきたいんでしょうね。次に生まれるときもきっといい霊媒師になると思うわね
名前のない英雄たちがそういう震災の時には集まりますよね
恵子さん
そういう人もいるけども、私たちは悲しみが広がりすぎないように、人として送りだせるように、そのために来てただけよ。何もできなくて、何も見えない人たちを助けたい。その気持ちに理由も理屈もいらないじゃない
ですねえ……いまだに見つからない方もたくさんいますからね
恵子さん
本当に、12年たっても人も霊的な人もまだまだ傷を抱えているのよね
ですねえ。これどうぞ
恵子さん
あら、じゃがりこ
なにも持ってこなかったんでじゃがりこを……
恵子さん
Kちゃん食べる分なくなるわよ(笑)
帰りにコンビニで買いますので大丈夫です
恵子さん
そうやって何かをしてあげたいって思うでしょ？その気持ちがみんなに会って集まったのがあの時だったのよ
なんとなくわかります
恵子さん
今日はいろんなところを回ったわね。こんな風にたくさんのお家を回るとかは私もそんなにしないんだけれどもね
普段は一件だけの依頼とかですもんね
恵子さん
ああいう集落というか地区全部を回ってできたご縁というのは特殊なのよね。ようやく日常が少し帰ってきたけども、前と同じではない。その違和感に耐えられるかどうかが土地に残るかどうかなのよ
なるほど
恵子さん
あと一件よっていきましょう
了解です
震災後に住み始めた家で、心霊現象が起こった人
恵子さんが最後に立ち寄ったお家はわかりやすい霊障の起きる家でした。
震災から数年して売り出された土地に住み始めたけれどもいわゆるポルターガイストに悩む家であり、今回恵子さんに人伝で連絡が来たという流れです。
恵子さん
こんにちは、ご紹介にあずかりました恵子と申します
Gさん
Gです。本当に無理な依頼で申し訳ございません
恵子さん
いえいえ、今拝見させてもらって大体原因はわかってますので。あの掛け軸は捨ててもよろしいですか？
Gさん
はい、大丈夫です
恵子さん
この掛け軸が呼び寄せてるので。Kちゃんこの絵を縛るようにロープ掛けれる？
掛け軸にかかれていたのは鳥のような何かでした。
羽は閉じておりくちばしが長い。それでいて尻尾は蛇といういわゆる怪奇絵というものです。
鵺（ぬえ）ですかね？
恵子さん
鵺に模倣したものではあるわね。これに寄せられてきてるというか引き寄せる絵なのよね
こんな感じでいいですか？
恵子さん
いい感じね。今度はそのまま丸めて行ってまた縛ってもらえる？
大丈夫だと思います～こんな感じでいいですか？
恵子さん
オッケーよ。で、Gさん。今度はこれをあなたが燃やしてください。そうすることでこの掛け軸はあなたのほうが自分よりも上だと認識しますので
Gさん
それだけで大丈夫なんですか？
恵子さん
いわゆるよそから来た人に対する威嚇のポルターガイストです。あとはこの近くで売ってる地酒を月1回庭に撒いてください。それでほぼ収まります
Gさん
もっとこう、派手な除霊とかはしない感じですか？
恵子さん
派手な除霊になるときは祓うべきものが大きなものである時で、結果的にそうなってしまうだけなんですよ。大体はこういう感じで静かに進んでいきますから。それに、派手な時には何らかの影響を皆さん受けているので無事では済まないですよ
Gさん
そうなんですね……
恵子さん
耳鳴りはどうですか？
Gさん
あ……なくなって……どうして耳鳴りのことを？
恵子さん
そういう仕事をしてますので。こちらを信じていただくには時々そういったこともします
Gさん
お恥ずかしいです……ありがとうございます
恵子さん
そうかしこまらないでください。こういうことはできない人のほうが多いですから。それに目に見えないものを取り扱う存在というのはいつの時代も胡散臭いとされますしその程度で目くじらを立てていたら霊媒師なんてできませんもの
恵子さんはそういう感じですよね
恵子さん
この子なんかはまったく霊能力がないけども私の仕事を定期的に手伝ってくれるんですよ。大体考えてることは帰りに何を食べようかなですし
だいたいそれしか考えてません
Gさん
(笑)
恵子さん
そんなものですから気にしないでください。結果がいい方向に行けばそれでいいので
Gさん
今日はこの辺りを回られてらっしゃったんですか？
恵子さん
そうですね。だいぶいい方向に向かってる気はします。なのでGさんのとこが最後ですね。この掛け軸を買ったものを多分いつなのかわからないと思うんですが、こういったものって買った覚えないことが多いんですよ。いつのまにかそこにある。なので、ああそういうものかと受け入れてしまうんです
Gさん
そんな感じがします
恵子さん
まして大震災のあとですからね。こういったものがふらっと、やってくるというのは被災地けではなく全国であるんですよ
Gさん
怖いですね……
恵子さん
震災の後のアンティークの購入や古美術は避けておくのもいいかもしれません。そういったものを引き寄せやすい人のところには厄介なものが来てしまこともありますので
Gさんの家をあとにして帰りに道につきました。
道中で休憩をしながらの長距離運転です。
恵子さん
震災の後ってね、遺品とかをアンティークって売り払う人もいるのよ。火事場泥棒というかね
人の心がないですね
恵子さん
そうなのよね。人の心もないし人であることも捨てたいんでしょうねえ……そういったものを購入すると不要なトラブルも起きてしまうのよね
なんとなくわかります
恵子さん
あとはGさんの家にきたような、ああいう簡易的な呪物も出回りやすいのよ。Gさんの家はあの掛け軸が地元のなんだかんだを引き寄せてポルターガイストを起こしていたから掛け軸をおさえればいいだけだったんだけども
磁石みたいな感じですか？
恵子さん
あの掛け軸自体は元々はただの怪奇絵なんだけども、誰かがあれにそういうものを呼びよせるものをかけてるのよね。何を目的とかじゃないのよ。ただいたずらに誰かの心や生活を壊したいっていう純粋な悪意ってあるものなのよ
非常にいやですね
恵子さん
ああいって物を好む人っているからまあ怪奇絵があるんだけども、飾りたいかってなるとねえ
Gさんは軽いものでよかったですよね
恵子さん
あれくらいならね。ただ遺品のアクセサリーや宝石とかだと集まると面倒なものになるからね、気をつけていかないと。今になって売りだしてるとかもあるのよ。いま出せばそれが遺品とは思わないでしょ？
あーたしかに。すごく嫌な頭の良さだ
恵子さん
今後そういったものが増えていきそうよねえ……
安全圏で生きていきたい……
東日本大震災被災地での慰霊の後日談
こんにちは
恵子さん
いらっしゃい。この間のじゃがりこなんだけどもね
たらこバターですか？
恵子さん
とてもおいしかったってお礼を言ってほしいって
お礼ですか。いやそれはじゃがりこをつくってる所に美味しいといってもらえれば
恵子さん
よかったじゃない、霊的な存在からのコンタクトよ(笑)
全力で見えなくていいんで
恵子さん
また向こうに行く時はお願いね
はい
