目次
霊的存在との契約―霊能者が果たすべき役割
Yさんからの依頼を終えて翌日の帰宅の準備をしていた時でした。
恵子さんにYさんから連絡が入りどうしても来てほしいという事。
恵子さんに言われて再度Yさんのお宅に車で向かったところYさんのお宅からなんとなく嫌な空気が流れているような気がしました。
なんか空気が嫌な感じですね
恵子さん
実際に嫌なものではあるわね
なんの用なんですかね。そろそろお風呂に行こうかと思ってたんですが
恵子さん
そうよねえ。ゆっくりと温泉につかりたい時間よねえ
そのあとは夜食を軽く注文しようと思って頼めるものをチェックしたかったんですが
恵子さん
あらどんな夜食があったの?
ウナギ茶漬けです。これは絶対に食べたいな~と
恵子さん
宿代はYさんに行くから食べちゃいなさいよ(笑)デザートやドリンクでもいいわよ
ウナギ茶漬けにお酒頼んでもいいですか!?
恵子さん
それでもおつりが多分来るわよ~すきに頼みなさいね
心して食べます
Yさんのお宅にお邪魔するとYさんが顔の片側をおさえており、なんとなく何かが起きたことは察することができました。
恵子さん
あー、Yさん。その手は絶対に離さないでくださいね
Y さん
はい……
恵子さん
術をかけてるのはあなたですよね。地元の方に頼んだら面倒が起きるから遠方の私まで伝手をつかった。証拠を残したくないのとある程度の水準を求めましたね?
Y さん
………………………
恵子さん
語らなくても大丈夫ですよ。私に再度依頼するのは、今すぐには決められないでしょうから。私が言えるのは時間はあまりないので、ご自分で決着をつけることをお勧めしますけれども
なんだか大変ですが見なかったことにしますね
Y さん
そちらの方はなんで、この状態でも何も見えていないんですか?
恵子さん
それはKちゃんが全力で見ないようにしてるからですよ。見たいと思うことがない、見たくない、そういう力って強いんですよ。何か一つに振り切っているものや絶対に嫌だと思っているものって意外と強いんですよ。中途半端に興味をを持たない。なのでKちゃんは、ここに限らずどこに行っても見えないですよ(笑)見たくないといってるものに無理やり見せようとすれば、それだけ霊力の消耗も強くなる。それはわかりますよね?
Y さん
ええ…………
恵子さん
もう一つやってはいけないのは、自分よりも能力のあるものを供物にしようとすることですね。幕引きは自分でしなければいけません。あなたがどんな気持ちやどんな考えで、その呪術を使ったのかは呼ばれた側には関係ないんですよ。呼んだ側。呼ばれた側。それだけなんですよ。それだけの関係なんです
難しい話ですね
恵子さん
自分で呼んだものを育てたい。それは術師や霊媒師ならば誰でもあります。それに対してどのように接して契約していくのかも大事になります。急速に育てることはできないんですよ。使う側の能力が追い付かなくなる
Y さん
……………………
恵子さん
どのように決着をつけるかは、私には何も言えません。ですが自分でやらなければ呼び出したそれもずっと残りますよ
大変ですね
Y さん
他人事みたいですね
恵子さん
他人事ですよ。実際に、それくらいに割り切らないと霊能者なんてできませんよ。なんのために、霊能者や霊媒師、術師になるのか。ならざるを得なかったのか。どっちにしても呼び出したものはその時点であなたとの契約ができ、あなたの希望を叶えてるはずですから。今度はあなたは自分で決着をつけるべきというだけです
もらった金額以上のことはしないって恵子さん常にいってますよね
恵子さん
この子は私をここまで運んだり、荷物運びや準備、簡単なサポートもしてくれる。それに対する対価はもちろん払ってますよ。こちらが希望した以上の仕事や結果を出してくれたり危険な目にあった際にはその分も。そうやって契約というのはちゃんと終わりにすることができる。あなたは今代金を払ってない状態なんですよ
踏み倒しできなさそうですよね
恵子さん
踏み倒せないこともないけれども、それはすごく大変なのよね。だったら対価分をはらった方がいい
Y さん
どうすればいいんですか?
恵子さん
それは自分が呼んだものと向かい合うべきですよ。私たちに聞くべきことではない。私たちもなにもできませんから
霊能者の能力が招いた悲劇、Yさんの過ち
宿に戻ってから温泉に入り、夜食とアルコールを休憩室でいただいていた時でした。
同じメニューを頼んだ恵子さんが座りYさんのことを話してくれました。
Yさんは派手な術師にあこがれていて、たまたま何かを呼び出してしまった。
本来はYさんにはそのような能力はないが、自分がそういったものを呼べると錯覚したことでより強いものを求めて今回は自分の手には負えないものが来てしまったこと。
Yさんには主人格が見えていない。
主人格はイタチであり、そのイタチもYさんが自分を制御できないことは理解できている。
それはまずいのではなですかね?
恵子さん
そうなのよね。相手になめられてるわけだし。イタチが主人格ならネズミやら蟲やらも納得できるわね。蛇も少しいたし
なるほど……イタチってかまいたちとかもいるから、そうやって考えると結構厄介なんじゃないですかね?かまいちたちのイタチがイタチなのかはあれですけども
恵子さん
まあ伝承とかもそうだけども、そうやって語られるものになるくらいには強さのある生き物なのは間違いないのよ。熊の擬態もだけどもイタチって臭いがすごいっていうじゃない
あー……そういわれたらそんな気はしますね
恵子さん
なので獣臭がしたというのもイタチのにおいだったんじゃないかしらね
ひっかき傷も熊よりも細かったですよね。熊のサイズもわかってないのはありますが……
恵子さん
そうなのよね。ちょっかいをかけるこざかしさもあった。堂々とはしてないから小さな生き物っていう絞りもできたのよね
このウナギ茶漬けのおかわりをしてもいいでしょうか?
恵子さん
いいわよ(笑)支払いはYさんになってるから
とてもお腹がすいてしまって
恵子さん
ああいった場にいると、どうしてもいろんなものを使ったり吸われたりするのよ。それでお腹がすく人も多いわよ
Yさんはどうなってるんですかね?
恵子さん
イタチが目から出ようとしてたから見える人にとっては嫌なものだし、Yさん本人としても想像以上の苦痛なんじゃないかしらね
でるならいいんではないですかね?
恵子さん
イタチがなにを考えてるかまでは、私には関係のないことだからねえ
余計な仕事はしないって素敵なことですよね
恵子さん
慈善事業でもなければ自己顕示欲のためでもない。霊能者っていうのは霊的な案件を解決するための存在なのよ。目立ちたいとかそういったものじゃない。もちろんそういった動機で霊能者になる人もいるわ。ただ理由はどうであれ、ある程度の水準までの能力を使えるようになるには、それなりに厳しい修行を積んでるし、ただ才能があるだけでは、すぐに形になるわけでもない。霊的な能力が非常に薄くても努力でその能力を最大まで引き出して自分に適した分野の案件の解決をしていくこともある。誰かに乗っかってどうにかしようとか、自分で決着つけれないことをしちゃいけないのよ
私は見えないですし見えないほうがいいんですが、見えるようになりたい人も多いですもんねえ
恵子さん
まあ、Yさんも頑張ってあのイタチをとれる人をみつけないとね。タイムリミットもあることだし
明日は全力で安全運転で帰りますね
恵子さん
よろしくお願いするわね
霊視できる人が神格持ちとの対峙を避けた理由
恵子さんは、今回なんで引き受けなかったんですか?
恵子さん
なんというかねえ……たしかにYさんはイタチを主人格にしたものを呼び出した。でもね、その後ろにいるものが私じゃ太刀打ちできないものなのよ……私だって安全策をとるわよ。命を懸けてまでYさんに何かする理由もないし、助ける理由もないわよ
恵子さんが、早めにYさんのお家から離れようとした理由ですかね?
恵子さん
なんというかね、Yさんが最終的に立ち向かうことになるのは神様なのよ。それもいい方じゃない神様。なんというかね、神様っていうのは祓えないのよ。それでいて理由もなく一方的に好かれることもある。そうなったらあきらめるしかないのよ
あきらめる……
恵子さん
そう。少しはいい方の神様であればその神様との伴侶という形もつくれるかもしれない。でもYさんについている神様は生贄を求めるのよ。それはとても大変だし、私がどうこうできるものじゃないの
ほれられたって感じですか?
恵子さん
でもないんだろうけども好かれてはいるわね。あのイタチは雌なのよ
ああ……
恵子さん
私は神格持ちはできるだけ相手にしないことにしてるの。私が神様の力を借りることがあるから、なおさらにね。いたずらで呼び出してしまったとしても呼んだいう事実はかかわらないもの
Yさんがなんというか、普通に過ごせるようになるにはどうしたらいいんですか?
恵子さん
本当に大きなところにお世話になった方がいいと思うわね
つまりどうにもならないってことですよね
恵子さん
そうなるわね。神格もちで地獄に片足入れるような人の依頼を受けたいとかはないわよねえ……
わかりました。なにも聞かなかったことにします
恵子さん
あなたのそういう所すごく好きよ(笑)
きっと、もうお会いすることもないのでコーヒーゼリーも頼んでいきます
恵子さん
(笑)
霊能者Yさんの失踪事件の真相
翌日は朝食をいただいてからYさんのお宅には寄らずに帰宅ルートをとりました。
恵子さんを送り届けて自分も数日なんだかんだと過ごしていた時に、恵子さんからの連絡が入りました。
おじゃまします
恵子さん
どうぞどうぞ
Yさんになにかったんですか?
恵子さん
失踪したそうよ
失踪ですか
恵子さん
そう。失踪。一応は失踪という形になってるけども
はい
恵子さん
誰もはっきりとは言わないけどもね。何人かはYさんが何かしたんだろうって見当がついていたというかね……私に連絡をくれたのも対面した人だったもの
Yさんはどこにいったんでしょうね
恵子さん
うーん……当たり障りない言い方だとあの世か、違う正解だけども多分地獄じゃないかしら。地獄じゃないにしても地獄に近いところにはいると思うわよ
怖い話ですねえ……
恵子さん
地獄ってそう簡単にはいけない場所でもあるんだけれども、そういった場所に連れていかれてしまう人は、いないわけじゃないのよ。Yさんはいろんな契約違反をしてしまった部分が一番の問題ね。自分が呼びだしたものとは自分で向き合うべきだもの
Yさんはなにがしたかったんですかね
恵子さん
みんなの注目を集めたかったんでしょう。どうもネットでも霊媒師だっていってそれでちやほやされてたみたいだし
いますねえ……自称霊能者
恵子さん
いるわよねえ。そこまで霊媒師や霊能者になりたいものなのかしらねえ……
Yさん、普通に人から慕われる感じでしたよね?顔だって整ってましたし、対応もそんなに悪い感じはしませんでしたし
恵子さん
Kちゃんと一緒だと、なかなか手ごわい人が多かったものね(笑)でもね、Yさんは私たちを自分の身代わりにしようとしたのよ。自分でかけた呪いや術の代金は自分で祓わなきゃいけないのよ。ネットでもそこそこお金とって霊能者をしてたみたいだし
完全な偽霊能者ってわけでもないですからねえ
恵子さん
そうなのよね。ちゃんと修行を積んだらいい形になる可能性もすごく高かったもの。それでも結果や虚栄心の方が強すぎたんでしょうね……
偶然でも強すぎるものを呼んでしまったのは分かってたんですよね?
恵子さん
分かってたわね。でなきゃ私の所までわざわざ連絡は入れないでしょ。ある程度の強さのある霊能力のある人間をささげようとした。でもねえ……あのイタチはYさんが欲しかったのよ。餌としては確かに私の方がいいとは思うけどもあくまでYさんがほしかったのよね
Yさんに惚れたんですかね?
恵子さん
どうなのかしらねえ……多分、私たちの理解できる部分ではないのよ。神様に好かれるっていうことはどんな神様であれ、あまりいい結果にはならないのよ。神様っていうのはそばにいるだけで命や精神力、運気や様々なものを食事としてとってしまう存在なのよ。うちの神様みたいに食事のできる環境からの神格を持った存在ではない場合にはYさんみたいに、なってしまうことも多いのよ
そうなんですか。難しいことはよくわからないので、なかったことにしますね
恵子さん
それでいいのよ。終わった仕事のことはできるだけ忘れてしまうことも大事なのよ。情が深すぎても除霊はできないもの
無償で霊能者を求める危険性を考える
慈善事業ではないってやつですね
恵子さん
そうなのよ、なんでもそうだけどもお互いに対価をちゃんといただく、っていうのはすごく大事なの。報酬や対価っていうのは自分の仕事に対して責任をもつことにもなるのよ。もちろん、本当に地震がないときやまだ不慣れなことが多い初心者なんかであればまあ、練習という部分はあるだろうけれども、ある程度相談を受けれるようになったら必要な分はもらわないと自分の仕事に責任が持てないのよ
なんかわかりますね
恵子さん
よく“ちゃんとした霊能者は料金は取らない”って主張する人がいるけれども無料で知らない人のために命を懸けろとか、それこそ傲慢以外の何物でもない。その結果その人が無くなった時に何ができるのか?って。同時に自分で制御できないものとの契約はしない、自分で解決できない仕事は受けない。これも大事になるのよ。強すぎるものっていうのは、いたずらのためにこちらに近寄ってくることは珍しくないのよ。Yさんはそうだったのよね、それを自分の実力と勘違いした。でも途中で気が付いたんだけども取った方法よくなかったわね
ですねえ
恵子さん
Yさんに限らずいるわよ。自分だけうまい思いをするために自分よりも能力のあるものを差し出そうとするというのは。ただね、そういう場合って私みたいに気づいちゃうことがほとんどなのよ。言い方悪いけども三文銭で誰かの命が変えるわけじゃないじゃない、ましてYさんから何かしてもらったとか助けてもらったとかもないのよ?
そうですよねえ。でもその辺をなんか聖人のように自分の命を捨ててでも、無償の活動をするのが霊能者みたいな考えって根強いですよね
恵子さん
無償が一番美しいって考えは捨てた方がいいわね。ただより高いものはないわよ。仮に仕事に失敗した際に捨て身にはなるけども、依頼者から頼まれただけで何ももらってないっていうことで、ごくまれに対象の注意をずらすことができるからね
契約というものを重視する存在ほど通じそうな気はしますね
恵子さん
そうなのよね。もらった分の仕事をしろと言われなくなるし運が良ければ逃げられるもの。中には霊能者は嫌がったのに無理やり交渉用にしたてられたとかもあるもの。そういうときに知恵と力のあるものほど契約が見えないなら話をすることができることが多いわね
いろんな偶然というか不運が重なったんですねえ
恵子さん
でもね、霊障はみんな消えたし後遺症とかもないって言ってたわよ。ああいった所からスター性のある霊能者が誕生とかがしたかったのかしらねえ……そんなにいい仕事でもないし割に合わないことのほうが多いんだけどもねえ
確かに危ないことは多いきはしますね
恵子さん
だから私は私一人で終わりにするのよ。誰かに継がせるとか誰かを育てるとかは全く考えてないもの。うちの神様はそうねえ、うちに残ってくれる人やうちに来る人とかに多分自然に受け継がれていくと思うけども私がどうこうとかは考えてないわよ
もったいないっていう人もいるかもしれませんね
恵子さん
じゃあKちゃん頑張って継いでみる?(笑)
絶対に嫌です(笑)
恵子さん
誰でもなれるわけでもないし、相手との話をまとめたりある程度のコミュニケーション能力は必要なのよね。自分の中にため込んで開放していくタイプなんかだとこの部分が難しくなる。かといってパフォーマンス重視だと今回のYさんみたいになる可能性もある。いろんな要素が必要なのよねえ……
今後も新しい才能に期待ですね
恵子さん
そうやって育ててる人もいるわねえ。できれば何も見えないというままに過ごせることの大事さをわかってほしいわよね(笑)
ですねえ、むりに見える人にならなくていい気はしますね
Yさんの悲劇的結末に気が重くなりました。Yさんが引き起こした事とはいえ、恵子さんに力のある霊能者さんをYさんに紹介して欲しかった。